えせNewtonこと「Newt On」のコンセプトおよび初期試作は、その筋の方々に「たいへん面白い」と好意的な意見で迎えられました。
→ 「えせNewtonプロジェクト」プレゼンPowerPoint資料(192Kバイト)
擬似的な(えせ)インテリジェント処理と、そこそこの実用性。まだ「モノになる」には基礎研究を続ける必要があるものの、将来展望に希望を持てるレベルです。
とはいえ、現状のままでは一般向けにデモを行うには問題があります。大々的に、Macintosh上の処理のパワフルさと柔軟性を実感してもらうための「えせNewton」なのに、実装が未熟な現状では、下手をすれば石を投げられかねません。
「何をやっているのか分からない」、「デモの内容が素っ気なさすぎる」
一般公開したときの手応えのなさが、いまから容易に想像できます。……では逆に、「デモ用」にチューニングしたバージョンを作成してみてはどうでしょうか?
ここはひとつ、逆転の発想でえせNewtonの改良強化新型バージョンを検討してみることにしましょう。
MacOS 9.x版
MacOS X上で開発を進めている「えせNewton」ですが、まだまだMacOS X上のAppleScriptはバグ持ちで、アプリケーションの充実もこれからです(日本語解析エンジン、Carbon由来系、URL Access Scriptingなどなどなどなど……!)。
MacOS 9.x上であれば、AppleScript対応アプリケーションも豊富で、AppleScriptの処理系自体も枯れているため、スクリプトを書く環境としては目下最高! 仕事でAppleScriptを書いている人間のほとんどは、MacOS 9.xやMacOS 8.x系のOSで仕事をしているのが現状です。
そこで、なにげなくMacOS 9.2.2上のMicrosoft Wordに対して、同様のスクリプトを実行してみたところ……強力な日本語解析能力がMacOS X版Wordの専売特許でないことが分かりました。
とりあえず、コマンド解釈+実行部分(シェル)にWordとの並列動作は行わず、明示的な操作で解釈・実行を行わせるようにすれば、安定した動作が期待できます。MacOS 9.x版の実現の可能性も、なかなかのものでしょう(先進的、未来的なトーンがダウンしてしまう危険性をはらみつつ)。
UNIX系アプリ応用評価版
AppleScriptから叩けるのは、なにもMacOS上のアプリケーションだけではありません。MacOS Xでは、土台にあるUNIX(BSD)の世界のアプリケーションも叩けるようになりました(結果も取ってこれるし)。えせNewtonの初期評価版を見た方々の声の中に、
「Word非依存にできないか?」 「単語切り出しにUNIXのchasenやkakasiなどを使ってみてはどうか?」
というものがありました(Namazuを使ってみては? という声もありましたが、なぜに全文検索エンジンを使う必要が? ーー;)。
個人的にUNIXの世界のアプリは……インストールや設定や運用のわずらわしさがゆえに嫌いです(昔、UNIXの雑誌編集に携わって、UNIXアレルギーになっているとか :-)。私はコンピュータを使って手短にアイデアを実現したいのであって、不毛なインストール労働で貴重な時間をつぶしたいわけではないのです。
あくまで私見ですが、BSDレイヤーのアプリを呼び出すオーバーヘッドはけっこう大きなものになると踏んでいます。MacOS X全体として見れば……余ったCPUパワーは最大限に最前面のプロセスに割り振るポリシーになっており(このあたりが、一般のUNIXと違う?)、バックグラウンド・プロセスの実行速度には(あまり)期待していません。
とはいえ、UNIX系アプリを利用した場合のオーバーヘッドがどの程度のものになるのか、実際に検証してみないと定量的・客観的な判断ができません。
コマンドパラメータをいちいちテキストファイル(しかも改行がLF)に書き出し、フルパスでUNIXのアプリに渡すあたりが超間抜けな感じ(AppleScriptの処理のエレガントさが損なわれる)。かなり気乗りしませんが、実験する価値はあるでしょう。
ViaVoiceの補助アプリケーション版
去年発売されたViaVoice Premium for Macintoshは、Mac史上に残る名作ソフト。日本語の音声によるコマンド操作環境が、1994年から苦節8年。ようやくMacintosh上に実現されました。
「English Epeech Recognition」の日本語版ともいえる「スクリプトクライアント」の存在が出色です。しかも、日本のユーザーからのリクエストをUSの本社にフィードバックし、いきなり製品版に突っ込んでしまうなど、日本の担当者の男気におしみない拍手を送りたいところです。

しかし、この傑作ソフト「スクリプトクライアント」にも、おのずと限界が存在します。音声コマンドが使えれば、データベースの検索を音声で行いたいのが人情というもの。ここに落とし穴があるのです。
ファイルメーカーProなどのデータベースに対し、本来であれば「河原さんを検索」といった「コマンド+パラメータ」式の音声コマンドを実行させたいところです。
しかし、さすがのスクリプトクライアントでも「特定話者の特定語認識」のレベルを実現しているに過ぎません。つまり、音声コマンドはひととおり固定のものを定義しておく必要があり、リクエストのたびに変わるパラメータには対応できないのです。
ところが、ここに「えせNewton」のテクノロジーを投下すれば……文章入力(コマンド入力)と、コマンド実行のフェーズを分離し、入力された文章を別のAppleScriptで解析。パラメータとコマンドをそれぞれ別個に認識できることになります。
実に目からウロコ、作っている本人でも気が付かなかった応用分野。SpeakPadに音声でコマンド入力し、Wordに入力したテキストをコマンドで転送させれば……あとは、勝手に「えせNewton」のコマンド・インタプリタが解釈して、コマンドを実行してくれるという寸法です。

そんなことを考えているうちに、状況は「えせNewton」に有利に動いてきました。
英語版ViaVoiceのMacOS X版は音声入力部分がSpeakPadと分離され、さまざまなアプリケーションに音声入力サービスを提供すると報じられたのです。
日本語版でも(高い確度で)同じ形式が採用されるでしょう。WordにViaVoiceから直接音声入力を行って、そこでコマンドを解釈させればよいことになります。
ただ……日本IBM(+USのIBM本社)が、ありあまる超絶的な開発力にモノを言わせ、自前でパラメータ認識機能つきのAppleScriptコマンド実行機能を載せてくる可能性もなきにしもあらずですが……その時には、おしみない拍手を送りましょう。