一般的なAppleScriptの命令を使用して、特定のプリンタへの印刷は実行できますが、用紙サイズまでは指定できません。そこで、仕方なくGUI Scriptingを使用して印刷を実行することになります。
ここで、「仕方なく」という前置きが入るのは、GUI Scriptingという仕組みが通常のAppleScriptによる命令よりも遅く、また確実性が劣るためです。確実性が高くないといっても、OSやアプリのクラッシュを伴うようなレベルではなく、アプリケーション側の状態を詳細に調べながら操作しないと「思い通りに動かない」という話です。
■GUI Scriptingを使えるようにするために
GUI Scriptingが動作するためには、システム環境設定の「ユニバーサルアクセス」で「補助装置にアクセスできるようにする」にチェックが入っている必要があります。GUI Scriptingは使用に注意を要する機能であるため、デフォルト状態ではオフになっています。

このチェックボックスをオンにすれば、GUI Scripting系の命令を実行できるようになります(プログラムを作成するだけであれば、オンにする必要はありません)。
■GUI Scriptingとは何なのか?
OS標準で搭載されているSystem Events.appが持っている「Process Suites」という命令群が、GUI Scripting(=UI Element Scripting)の命令です。他のSystem Eventsの命令については、システム環境設定/ユニバーサルアクセスでオンにしなくても普通に使えます。

一般的なAppleScriptでは、アプケーション内部のオブジェクトを経由して機能を呼び出すのに対し、GUI Scriptingはアプリケーションの外部からGUI部品を指定して命令を行います。このため、あるボタンを押そうとしたときに、もちろんオンになっていないと押せないですし、アプリケーション内部の状態がそのボタンがオンになる条件を満たしている必要もあります。
簡単な記述でアプリケーションをコントロールできるというのがGUI Scriptingの「理想」ではあるものの、実際に書いてみると……通常のAppleScriptとはまた別のマニアックなノウハウが必要な記法、と見るべきです。内部命令を経由しないでGUI ScriptingだけですべてのAppleScriptのプログラムを作成するというのが「幻想」というより「無理」であることはよく覚えておいてほしいと思います。通常のAppleScriptの「補助」的に使うのがGUI Scriptingの正しい使い方です。
■GUI Scriptingをはじめる前に
いろいろと前置きが長くなってしまいましたが、アプリケーションを無理矢理操作するため、「奥の手」としてGUI Scriptingが必要になるケースは確実にあります。そういう意味では、不完全なソリューションではあるものの、「じゃあいらないんだね?」とGUI Scriptingになくなられると困ります。ものすごく困ります。
GUI Scriptingでは、画面上のGUI部品を指定して命令を記述することになりますが、この部品の番号や並び順を知るためには、どうしてもツールが必要です。
(1)PreFab UI Browser
仕事でScriptを書く必要があるとか、確実かつ迅速にGUI Scriptingによるプログラムを作成する場合には必要です。ただし、このソフトでカバーできるのは8割程度であり、あとの残り2割をカバーするためには後述の「Accessibility Inspector」が必要になります(同ツールはXcode Toolsに含まれるため、Xcode Toolsのインストールが必須です)。

(2)Accessibility Inspector
Xcode Toolsをインストールすると、一緒に入ってきます。PreFab UI Browserでカバーできない一部のGUI部品の情報を調べるために必要です。具体的に言ってしまうと、PreFab UI Browserではポップアップメニューの内容までは追えません。とくに、ポップアップボタン「ではない」GUI部品からポップアップメニューを表示させるようなイレギュラーなプログラムでは本ツールの併用が必要です。

(3)「強引GUI Scripting」のためのツール
記述のために情報を調べるツールではなく、AppleScriptから命令して強引にマウスカーソルを移動させたりクリック動作させるようなツールです。ツールによって一長一短があるので、複数用意して用途に応じて使い分けるのが理想的です。プロのScripterはこの手のツールをいくつも手元に置いてあった、いざという時に備えています。何を使っているか、どの程度のAppleScriptライブラリを書きためているか等の情報はもちろんのこと、存在自体が門外不出のノウハウといえます。
これらのツールがそろってはじめて安心してGUI Scriptingのプログラムを作りはじめられます。……ない環境では、とても書く気になれません。
■アプリケーションの挙動を追う
GUI Scriptingでは、アプリケーションの状態を正確に認識した上で記述を行う必要があります。特定のウィンドウ上の特定のTabの中にあるGUI部品を操作する場合には、そのTabが表示されていなければなりません。ポップアップメニュー上の項目を選択するためには、ポップアップメニューを表示させておかなければなりません。通常のAppleScriptによるアプリケーション内部オブジェクト経由のコントロールの方が簡単と思えるほど、アプリケーションによってGUI部品の挙動が異なるため、正確な状況把握は欠かせません(PreFab UI Browser必須)。
■GUI部品の指定はIDか名前で
GUI ScriptingでGUI部品を指定する際には、window 1やmenu 1のように番号(ID)で指定する場合と、button “OK”のように名前で指定する場合があります。
名前で指定できたほうが、何を意味しているのか分りやすくてよさそうなものなのですが、名前で指定できるケースはあまり多くありませんし、だいたい……現在使用中の言語(日本語とか、英語とか)から別の言語環境でScriptを実行するような場合にはまったく動かなくなってしまいます。
このため、IDで指定することが多いのですが……アプリケーションがバージョンアップしたら、そのIDそのものも変わってしまうことが多々あり……GUI部品を検索して実行するような対策を行うケースもあります。
■実際に「プレビュー.app」のGUI Scriptingを行ってみよう
まずは、プレビュー.appで何も画像を開いていない状態で作業をはじめましょう。何もオープンしていない状態と画像をオープンしている状態でWindowの枚数がどう違うか、確認を行います。
何か画像をプレビュー.appでオープンすると、visibleなWindowの枚数が増えます。invisibleなwindowはほかにも何枚か用意しているようなので、ここでvisibleを指定しないで枚数を数えるとひどい目に遭います。
Windowの枚数だけでなく、画像をオープンしていない状態ではメニューの「プリント」の項目が有効になっていません。このため、「プリント」をGUI Scriptingで操作しようとしても、実行できません。このあたりで(オープンされている画像の有無を)判断するという手もあるわけです。
画像をオープンしている状態でメニューから「プリント」を実行できることを確認できたら、プリントダイアログの制御に入ります。
プリントダイアログは、デフォルトの小さいダイアログと拡張ダイアログで切り換えができるようになっており、この切り換えボタンの状態を取得して、「いま、どちらのダイアログが表示されているのか」を調べなければなりません。拡張ダイアログが表示されていないと、用紙サイズなどの詳細な情報にアクセスできません。


拡張ダイアログを表示して、用紙サイズやプリンタ名などを指定できるようになって、ようやくこれで出来上がった……と、安心していたのもつかの間……標準ダイアログの状態から拡張ダイアログに切り替えた後で、ポップアップメニューの操作が行えない。最初から拡張ダイアログが出ている分には問題ないのに……。
結論からいえば、同じGUI部品でも標準ダイアログと拡張の上でIDが異なっていました。さりとて、GUI部品に名前がついておらず名前による指定ができなかったので……拡張ダイアログが「出ていない」場合には、拡張ダイアログに切り換えたあとで、一度プリントをキャンセルし、再度プリント操作を行って拡張ダイアログ上の各種GUI部品をコントロールする……という方法で対処しました。
ちょっとしたことであれば、GUI Scriptingを少々かじったぐらいで処理できるかもしれません。ただし、そこに柔軟性を加えようとか、確実に動くようにしたい場合には、このぐらいの処理が必要になります。少々極端な例に見えるかもしれませんが、決して珍しいレベルではありません。
PreFab UI Browserを使って状態やIDを確認し、試行錯誤した末に最適な方法を見つけるなど、地道な……何かプログラミングとは別の作業のような気もするのですが、GUI Scriptingの実戦的なノウハウというのは、こういう感じのものです。